リチャード三世(1955 英)

2011年11月14日


生来の歪んだ体、しかし賢く抜目がない。
格好悪さを極めた悪役、悪い奴だが滑稽。
城内から終盤の戦場まで、各所の空間を
広く上手に使う撮り方が、舞台人らしい!

これだけ恵まれないと笑うしかないな、と言っている本人も実は他者の痛みなどまるで感じてない、という逆説的な物語。
冒頭、リチャードが冠を召使に預け、召使が落っことすところ。場面の変わり目でさりげないのですが、いきなり笑ってしまいました。

シェイクスピア劇って台詞の量が多く、一歩間違うと会話ばかりになり、観る側を飽きさせてしまいます。オリヴィエもそこはよ~く知っていて、映画用に台詞を、可能な限り削り、あるいは順序を入替え、空間や表情、そして心地よい沈黙とも言うべき間をうま~く織り込んでいる。
「敵役であり主人公でもあり道化でもある恵まれた役」、とはオリヴィエ自身のリチャード評。

終盤には、屋外ロケへ。それまでの城内中心の密室劇から、実に広広とした空間に移る、こういったところに垣間見られる、空間の広がりの上手な使い方、舞台人の彼っぽい特色です。
ボズワースの戦い。葬られた者達の亡霊、有名な「Despair and die」の場面、そしてヘンリィⅤを思い出させる野戦シーンへ、やはり躍動感があります。遠近感の使い方が巧い、奥行きを感じさせる。

「ヘンリィ」では英雄だったオリヴィエは本作では、まさに正反対のリチャード。同じ暴君でもマクベスと違うところは、罪の意識がなく、笑いを誘うほど滑稽で、ひたすら三枚目なところ。知略に富み、機を見るに敏、マクベス夫人的伴侶もいない、人から愛されない。芯まで悪。散り際も悪党らしく因果応報、実に清々しいほどの格好悪さ(笑)。なるほど、一流の俳優が皆、演じたがるわけです!愛すべき異形の悪党、ここに極まれり。

本国英国ではVHSのほか、オリヴィエコレクションの中でDVDにもなっています。日本でもDVD化されることを願ってやみません。ちなみにレンタルでは、VHSで、渋谷TSUTAYAに置いていたはずです。

さて、本作、オリヴィエにとってライバルとも盟友とも言うべき俳優が登場しています。Ralph RichardsonとJohn Gielgud 。Ralph Richardsonはオリヴィエとは親友で、ハル(ヘンリイ五世)と関わりの深い人気役フォールスタッフ俳優としてとても有名だったそうです。それからJohn Gielgudは非常に声の美しい、オリヴィエとは良い意味で相反し敵対していた(オリヴィエの声量は素晴らしいはずですが、自身が著書の中で、自分は声よりも行動的演技が持ち味、と言っています)、声量のある花形役者でした。このお三方は当時のイギリス演劇界の、まさに柱だったと言えます。

タイトル
リチャード三世 RichardⅢ
ストーリー
映画ヘンリィ五世の場合と同じくオリヴィエは、本作と直接つながりのあるヘンリィ六世第三部の終盤から、場面や台詞を多く引用しています。
例えば、本来RichardⅢの幕開けは、グロスター公リチャードの有名な「Now is the winter of・・」の独白から始まるのですが、この映画は、長男のエドワード四世の即位する場面からスタートします、それが冒頭の戴冠式です。この物語の背景を判りやすくする気配りですね。
the characters in order of their presentation Edward Ⅳ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Cedric Hardwicke
Archbishop・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Nicholas Hannen
Richard・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Laurence Olivier
Buckingham・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Ralph Richardson
Clarence・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・John Gielgud
Queen Elizabeth・・・・・・・・・・・・・・・・・・Mary Kerridge
Jane Share・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Pamela Brown
Prince of Wales・・・・・・・・・・・・・・・・・・Paul Huson
Page to Richard・・・・・・・・・・・・・・・・・・Stewart Allen
Lady Anne・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Claire Bloom
1st.Priest・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Russell Thorndike
one of 2 Monks・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Wally Bascoe
one of 2 Monks・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Norman Fisher
Brackenbury・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Andrew Cruickshank
Rivers・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Clive Morton
Scrivener・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Terence Greenidge
Catesby・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Norman Wooland
Hastings・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Alec Clunes
Grey・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Dan Cunningham
Dorset・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Douglas Wilmer
Stanley・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Laurence Naismith
Dighton(Murderer)・・・・・・・・・・・・・・・・・Michael Gough
Forrest(Murderer)・・・・・・・・・・・・・・・・・Michael Ripper
Duchess of York・・・・・・・・・・・・・・・・・・Helen Haye
Young Duke of York・・・・・・・・・・・・・・・・Andy Shine
Abbot・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Roy Russell
Lord Mayor of London・・・・・・・・・・・・・・・George Woodbridge
Ratcliffe・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Esmond Knight
Lavel・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・John Laurie
Messenger to Hastings・・・・・・・・・・・・・・Peter Williams
Ostler・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Timothy Bateson
2nd Priest・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Willoughby Gray
Scrub Woman・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Ann Wilton
Beadle・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Bill Shine
one of 2 Clergymen・・・・・・・・・・・・・・・・Derek Prentice
one of 2 Clergymen・・・・・・・・・・・・・・・・Deering Wells
George Stanley・・・・・・・・・・・・・・・・・・Richard Bennett
Tyrrell・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Patrick Troughton
Messenger to Richard・・・・・・・・・・・・・・・Brian Nissen
Messenger to Richard・・・・・・・・・・・・・・・Alexander Davion
Messenger to Richard・・・・・・・・・・・・・・・Lane Meddick
Messenger to Richard・・・・・・・・・・・・・・・Robert Bishop
Norfolk・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・John Phillips
Richmond・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Stanley Baker
監督
Laurence Olivier
製作
Laurence Olivier、Alexander Korda
脚本
Laurence Olivier
原作
William Shakespeare
音楽
William Walton
製作
1955年 英国
上映時間
161分
英国初回公開日時
1955年4月16日
リリース

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