蜘蛛巣城(1957 日本)

2011年11月29日


こんな良い日に、こんな悪い日は見たためしがない
西洋のお話が展開するのは、この上なき和の世界!
反喩が効く印象的な台詞が、美しい日本語に乗る
三船敏郎もぴったりですが、夫人役の山田五十鈴が至極。

さて、オリヴィエの後は、我らが黒澤明による作品。

本作は、言うまでもなく「マクベス」の映画化。
私は、日本が持つ独特の美意識と、シェイクスピアの世界は、とても相性が良い、と感じました。

騎馬で荒野を駆け迷う武士、夫人の立ち振る舞い、森の中で蚕の糸を紡ぐ老人、刺さる矢、などなど、本来スコットランドの大地で展開する物語が、日本という土地で見事に体現され、展開されます。

ヘンリィⅤのところで、英国では「シェイクスピアは聴くもの」だった、と言いましたが、本作はまさに「見るシェイクスピア」!。美しい日本語台詞と共に、能を取り入れた流麗な動き、陰影で織り成す水墨画のような世界は、白黒の深みもあいまって、何度観ても飽きない。

オリヴィエの「ハムレット」でも申しましたが、白黒の持つ奥深さや寒々しさは、特に古典シェイクスピアの悲劇戯曲にはふさわしく、この映画も、忘れられないようなマクベス世界の暗闇感を残してくれます。だからと言って、もちろん白黒以外は認めないとは申しません。

何度かご覧になった方はお感じになるかもしれませんが、本作で、目立ち方から言っても、本当の主役はマクベス夫人の山田五十鈴さんです。登場時間は三船さんの半分くらいだと思いますが、要所要所が素晴らしく、抑え目でかつ的確、悪人でありながら非常に強い意志を秘め、物語を牽引しています。こういう女性なら抱きとめてあげたくなります(僭越ながら・・)。
シェイクスピアの女性役でも、最も演じ甲斐のある役の一つでありますが、五十鈴さん、尊敬します。
この映画に唯一つ難点を申せば、忠義や誠を重んじる日本人の武士が、こうもあっさり己の利益のために悪事に手を染めるかな、とも思いますが、五十鈴さん扮する夫人が、それを正当化してくれてる、と私は思います。

マクベスは私も最も好きな戯曲の一つです。
オリヴィエが自著の中で、シェイクスピア劇全体を見渡したとき思い出す台詞があり、それは「ハムレット」の「so oft it chances in・・」いわゆる人間の悪い癖、の部分の台詞だそうです。
マクベスもまさにそうで、人間はいかに高潔で素晴らしいようでいても、ほんの僅かな欠点が何かの契機でのさばり出し、崩れ去る可能性がある、と教えてくれます。人の面白い部分でもあり、怖い部分でもあり、忘れてはならない本質です。私自身、肝に銘じています。

本作以外に、映画ではオーソンウェルズの「マクベス」、ロマンポランスキーの「マクベス」、いずれもお薦めできる、素晴らしい力作です。
あえて黒澤さんの作品を推すのは、私が日本人だからかも。

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